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【書評・読書記録】幸せになっちゃ、おしまい(平安寿子)

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平安寿子『幸せになっちゃ、おしまい』

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2007,8年に雑誌『Hanako』にて連載されていたものを加筆してまとめたエッセイ集。

タイトルに惹かれて読みました。

ただ、読む順番を間違えてしまったなと。

というのも、この作品は物語ではなく、経験や思想など平さんの執筆作品のルーツであろうことが凝縮された内容。

途中でそれに気づいた時に平さんの作品を全く読んだことがない状態で、このまま読み進めていいものかと思いましたが、それでも充分に楽しめました。


短いエッセイが大きなテーマごとにまとめられている本書。

大きなテーマは「物語とは」「日本と外国について」「女性というものについて」「幸せとは」など。

雑誌での連載から文庫化されるまでに発生した東日本大震災によって考えが大きく変化したことが感じ取れた。

筆者が生まれ育ったのがヒロシマということもあり、福島の原発問題については特に。

海外で自分の出身地を口にした瞬間にまず健康状態を心配されるなんてことは実に辛いことです。

そして、あの当時に日本中で大きく変わったエンターテインメントに対する考え方。

被災して日常すらままならない極限のサバイバル的状態にこそフィクションが必要だそう。

本や映画などの蝦夷らごとの世界に没入すると、日常を忘れるだけでなく、過酷な現実に立ち向かうためのエネルギーも生み出すことができる。

特に辛く苦しい状態に置かれていない自分は息をするようにエンタメを享受して無意識的に得られていたことですが、過酷な状況に追い込まれた時にこそこのように明文化できるほどはっきりとエンタメの可能性や必要性が感じ取れるのでしょうね。

 


タイトルにもあるように逆説的な表現が非常に特徴的で、何気ない生活の記録のような内容の中に、印象深い言葉たちが隠されていた。

「バカで無力なあなたの中に、誰も気づかないほどの小さな小さな苗がある。最低二十年、待ちなさい。ショートカットできないものにこそ、本当の価値があるのだ。それがわかるのも。時間が経ってから。我慢して、またなきゃね。」 本書で紹介されていた久米宏さんの『頑張る』という表現についての考え方がものすごく共感できた。

自分も人に対して「頑張って」という表現は絶対に使いません。

言う側にとっては安易に使える言葉であるものの、言われた側にとってはプレッシャー以外の何物でもない。

それに、「頑張って」なんて言われても言われなくても、頑張ることには変わらないですよね。

何より、人に気安く「頑張れ」なんて言えるほど、自分は頑張ってないし、それに値するだけの地位も影響力もないし。

その代わり、「自分、頑張れ」はたくさん使います。

平さんの他の作品を早急に読みたいと思います。それを踏まえて、これを読んでみるとまた新しい感覚が得られるのかな。

#平安寿子 #幸せになっちゃおしまい #読書記録