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【書評・読書記録】アンチノイズ (辻仁成)

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辻仁成『アンチノイズ』

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『アンチノイズ』あらすじ

区役所に勤務し、街の騒音測定の仕事をする主人公。

彼が街の音に耳を澄ました時、不意に聞こえてきたのはお寺の鐘(梵鐘)の音であった。

現代の生活において街の音は人々の生活には不要なものとして無意識に処理され埋もれてしまっている。

 

人々の生活にノイズとして存在しているのが騒音。

一般的に騒音とは、10m以上離れた地点で85dB以上の値が測定される音と定義されている。

このように騒音に数値的定義があるものの、主人公は鐘の音を含め街に散らばる大きな音全てが人々にとって騒音なのだろうかという疑問を抱く。

改めて街の音について考えて、大きな音であっても現代の人々が忘れかけている、心に響く音を探求するために奔走。

 

対して、私生活においては煮え切らない問題を抱えている。同棲中の相手とはうまくいかず、その穴を埋めるように、ある仕事をする女性の元に頻繁に潜り込む。

彼女の趣味は盗聴。街中を目に見えないながら飛び交う大量の電波。電波の中には顕在化していない音が存在している。

人の会話を盗み聴く行為を見た主人公は嫌悪を募らせるがあることがきっかけとなり、のめり込んでしまう。

人間にとって本当のノイズとはなにか、完全な音とはなにかを問う物語です。

 

『アンチノイズ』感想など

この作品が世に出たのは1999年。

それから20年が経ち、今ではイヤホンなどによって個人の空間にそれぞれの音を広げることができるようになりました。

それによって自然の音はさらに生活からなくなり、人々の外界の音に対する許容範囲も狭まっているような印象も受けます。

 

そんの時代だからこそ、改めて自然の音に耳をすませたくなる一冊です。

主人公の境遇や、聞こえる音と潜在的な音が終始広がっている様相。

読み終わってから騒音・盗聴・調律など、この作品に登場する音に関する考え方をノートにびっしりまとめる時間がとても楽しかった。

オススメ度:★★★★★